ゴールデンな VS
(バーサス)vv C
 

 

          




 何だか途中から意義が大きく変わってしまった“競走”は、結構良いタイムを持続したまま、いよいよ最後のコーナーへと辿り着く。
「あ………。」
「………。」
 水面すれすれ、数センチほどずつだけ頭が出ている杭が、日本庭園なんかの飛び石のように、間隔をもって並んでるのが見える“池渡り”というコーナーで。
「ここが最終らしいですね。」
「うむ。」
 とはいえ、さすがに難関であるらしく、結構広い人工池のその向こう岸まで至るのは、なかなかどうして容易なことではないらしい。1つ1つの杭の先は、小柄な女性がそぉっとやってみて、やっと両足が乗せられるかどうかという面積であるがため。途中までは勢いで進めても、途中の半ばで身体のバランスを崩しては、きゃわきゃわと悲鳴を上げつつコケる人が続出しており。上がる飛沫の華やかさと、主には女性の上げる楽しげな悲鳴とで、にぎやかさでも超注目のアトラクション。さっきのすべり台以降は、競り合うこともないままに…それでも結構なペースの足取りで、並んでやって来た彼らだったが、

  「では、行くか。」
  「あ、はいっ!」

 伸ばされた頼もしい腕は、何の躊躇もなく小さなパートナーの背中と膝下へとすべり込み、セナの側でも何の衒
てらいもないままに、その身の重みを相手へ託す。ふわりと抱え上げられたのへ呼吸を合わせ、腕を伸ばして雄々しい首へ。これでもう何にも心配は要らないと、お見事なくらいの一心同体ぶりだけれども、ちょぉっと待って下さいましな。一人でひょいひょいと渡るのだって、バランスを取るのがなかなか難しい杭渡り。そこを、こんな不安定な恰好にわざわざなって渡ろうとはと、再び周囲が唖然としたが、

  「あ………。」

 いくら小柄でも50キロ近くはあるだろうパートナー。それを…まるで絹の束のようにふんわりと、腕の中に軽々抱えたまんまにて。しゃんと伸ばされた背条も頼もしく、すたすたと揺るぎない足取りで歩いてゆく、余裕の男性。歩みを進めると杭を中心に水紋が次々に広がるのが、映画のワンシーンみたいに印象的で。数mほどの水路を見事に渡り切ったその途端、誰かが示し合わせていた訳でもないのに、周囲に居合わせた人々からの拍手喝采がどっと沸き起こったから…群衆心理って不思議なもので。

  「あやや。///////

 こうやって渡ったこと自体には頓着が無かったものの。思わぬ拍手には戸惑いを隠し切れないらしいセナが、どうしたもんかと視線の置きどころに困っていると、

  【はいっ。おめでとうございます。】

 そんな声をかけて来た人がいる。ここの係員らしくて、お仕着せらしき地味な紺色のジャンパーを羽織り、目深にかぶったスポーツキャップに、片手にはハンディマイクを持っていて、
【お二人の出した記録は、42分01秒。これはこれまでの最短にあたるコースレコードですので、次の記録が出るまでの参考記録ということで、事務所にて記念のプレートをお作りしたいと思います。】
 すらすら語られる口上に、周囲からの拍手はますます高まったが、

  “…あれれぇ?”

 この人って、もしかして………?






            ◇



 はい。先の章からの伏線にて、何となくお気づきの方もいらしたにちまいない。俊足韋駄天の二人連れを、スタート地点から見守っていた人物は、アスレチックコースの奥向きにあった総合事務所までを案内してくれて。オーナールームとプレートの掛かった部屋のドアをノックすれば、
「おう。入れ。」
 随分と鷹揚なお返事が。にっこり笑った“係員”さんが“さあどうぞ”と開けて下さった扉から入れば、広々としたオフィスの、陽あたりのいい窓辺にいたのは、

   「タイムレコード、おめでとさん。」
   「…何やってるんですか、蛭魔さん。」

 確か関西の方へスカウティングに行くって言ってませんでしたっけと、金髪痩躯の先輩さんへセナが小首を傾げている傍らから、
「ごめんね、セナくん。進と組むなんて、随分と恥ずかしかっただろうにね。」
 さっそくにも施設壊してたしね、人目が集まって辛かったでしょう?だなんて。白々しい言いようをなさる係員さんは、

  「新しい芝居の練習か? 桜庭。」

 進さんが向ける怪訝そうな眼差しへ、他に言いようはないのかなと、ちょっとばかりムッとしたらしいアイドルさんだったりし。
「なに、ここを経営してるのが、俺の“知り合いの子会社”でな。」
 完璧なマーケティング、完璧なプログラム、完璧な試算をしいて、自信を持って新装開店したものの、こういったテーマパークはリピーターを食いつかせる“企画”が問題。それが成功するか否かが、その後の人気の持続のバロメータにもなるということから、プレミアグッズなどにも力を入れているものの、
「ゴールデンウィークだってのに、利用者数は下がりもしないが上がりもしない。」
 はっきりした結果がお好みの“オーナー様”といたしましては、此処に自分がいなくとも継続的に経営が乗れる“波”がほしいと思い立ち、

  「それで、お前らをご招待した訳だ。」

 そりゃあ嬉しそうなフィクサー様が仰有るにはネ? これを突破すれば特別な記念品が貰えるよと、コースレコードを掲げることで、お客様の挑戦意欲を掻き立てる…という最もポピュラーな方策を思いついたは良いのだけれど。問題はその数字。あまりな時間を計上すると、そんなにも掛かるのかと敬遠されかねないからね、なんだ、このくらいでゴール出来るのかという目安になりそな、お軽い数値に設定するに限る。とはいえ、昨今は“やらせ”や“過剰表現”に厳しい御時勢なので、はったりを掲げるのにも規制が厳しい。ならば…

  「やらせでなければ、どこからの文句もあるまいからな。」

 そこで白羽の矢が立ったのが、彼ら俊足ペアだったということならしく。………でもでも、それって。確かに“やらせ”じゃないけれど、彼らの記録を普通一般の人と一緒にしても良いのかなぁ?


  「まだプロじゃねぇんだから、何にも何処にも抵触はしてねぇぜ?」

   ………う〜んう〜ん。
(苦笑)






          ☆☆☆



 それじゃあ記念の写真を撮るよと、二人で並んでの写真を撮られ、桜庭さんがきちんと計測したという、コース始まって以来というこの記録を、難関コースのレコードに掲げるからねと楽しそうに告げられて。戴いた記念品というのが、イタリア製で有名なジノリとかいう工房さんのお揃いのマグカップだったのは…実はちょっぴり嬉しかったセナくん。進さんから、
『小早川の家へ行った時に使わせてくれればいい』
 さりげないながら、そんな風にわざわざ言われて。ポ〜ッとのぼせた揚げ句、両手に抱えていたのを危うく取り落とすほどだったとか。何だか…あのお二人に良いように使われてしまったような顛末だったけれどもね、いっぱい走って、鬼ごっこもして。人前だったのに抱っこもしてもらえて。大胆なまま思い切り奔放に過ごせた一日は、何だか凄っごく楽しかったから♪


  ――― また、お休みの日が合えば遊びに来ましょうか?
       そうだな。


 今度は負けんと進さんが言い、ボクだって負けませんからねとセナくんが笑って。


   さて、ここで問題です。
   このフィールドアスレチックにての二人の“競走”。
   結局、どちらが“勝った”のでしょうか?
(笑)


  「引き分け
ドローなら“親の総奪り”と相場は決まってんだがな。」
  「妖一って、そういう“胴元”とかって似合いそうだねvv」



  〜Fine〜  05.5.8.〜5.29.

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  *何だか微妙に収拾がついてないようですけれど…。
   施設を壊したらペナルティがつくっていうやりとりが
   どうしても書きたかっただけという、
   そんな極道な動機で書き始めちゃったから、
   こんな終わり方になっちゃったんでしょうかしら。
   いやはや、反省反省でございます。

  *あ、しまった。
   モン太くんの方のお休みがどうだったかに触れてない…。 

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